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小説をちらほら
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    昨日の感謝を、明日こそ 2

    ★★②








    「おかえり…あれ? 3人は?」 
     他の子たちの姿が見えないので、親は不思議に思った。 
    「もー!お母さんもお父さんもひどい!! 大事なお客様が来るから、ちょっとみんなで遊びに行って来てって! まさかお客様がセリム君だったなんて!!!」 
     ぷくーと頬を膨らますこの子は、エルリック家の第二子である娘だ。ちょっと前まで二つに結わいていた髪を、今は少し高い位置から一つに束ね上げる。その姿は、昔のウィンリィに似ている気がした。歳は、セリムより4歳ほど下の少女。…それなのに、これも母の影響を受けたのか、注意してもセリムを`君`で呼ぶのを止めないのだった。最も、当のセリム本人が全く気にしていなく、何か言うわけでもないので、そのままになっている。 
    「何処で訊いたのよ、その情報」 
    「駅。汽車降りたら、駅長さんが教えてくれたの。お昼頃セリム君が降りたって」 
    「それで、みんなは?」 
    「お兄ちゃんが、先に行って良いよって言ってくれたから……」 
    「あら、そうー…」 
     ウィンリィは、言葉の中にその一番上のお兄ちゃんに少し同情心を含めた。 
    「あとで、ちゃんとお礼言うもの」 
     少女は、分が悪そうに反省しつつ、少年の方に向き直ると、元気に言った。 
          
    「ねぇ!セリム君は今日の夜どうするの?」 
    「……ぇ?! …えっと…」 
     話しかけられなければ、心を失ったように上の空。冷めたコーヒーを理由も無く見ていたら、急に呼ばれ慌てて、返事をした。しかし、返事をしたものの言葉は聞き取れなかったよう。 
     セリムは、少し年下の女の子が期待の眼差しで見ているのに気づいた。 
    「………っ」 
    「それとももしかして、もう帰っちゃう?」 
    「いや…まだ、決めてないんだ…」 
    「お父さん、セリム君泊まっても良いでしょー?」 
    「あぁ。まさにその話をしてたところだ。今日は泊まれば良い。この先居るかは、今、答えを出さなくて良いよ」 
    「本当ー! やったぁ!」 
     娘は大いに喜んだ。セリムは、まだ何も言ってないのに。と、内心思ったがもはや、誰も聞いてはいなかった。 
    「まったく、この家は……本当に」 
     前から思ってたけど、変だ。何でこんなに、僕に対して恐れががないのか…。 
    「一人は寂しいだろ? 」 
     口を閉じてワガママを言うのを我慢した。なのにーー。何もかも見透かされている。 
    「俺だったら、寂しい」 
     エドワードは少し笑って言った。こんな風に、大人に下手に出られたらもっと子供のセリムも強かっているのが、恥ずかしい気分になった。 
    「……っ」 
    「決まりだな」 
         
    ** 
     日が沈んだ直後、遠くからでも分かる誰かの泣き声がだんだん大きな声になり、ウィンリィにはそれが末っ子の 次男だと姿を見る前に、わかった。 
       
    「ゔぁあ〜 っぇぇ、おかぁさんんん」 
    「あー、はいはい。大丈夫よ」 
     ドアが開くとすぐに駆け寄って、ウィンリィは長男が腕に乗せて抱き上て泣きじゃくるその子を受け取って、交代した。そのため、帰って来た長男と3番目の子の“ただいま”が聞こえないほど。 
    「…はぁーやっと、…着いたっ!」 
     腕がやっと空になると、安堵と脱力で力が抜けたようだった。大仕事を終えた長男を見ると、ぐったりと疲れてやつれてるように見えた。そして、先に帰った少女を少し睨む。 
    「あのな、聞いてくれよ! おまえが居なくなったあの後少ししてさ、急に“お腹すいた、お母さんに早く会いたい、もう歩けない”って。もう少しで着くから頑張れ! って励ましたんだけど泣くのを止めてくれなくて、そしたら今度は左手で握ってた妹が、“あ、今なんかあっちでガサって音した! モグラかな?? お兄ぃー、ちょっと見てくるね!!”って花咲かせて飛んで行きそうになるし。オレの体は一つだっつうの!! あの30分は、さすがにきつい……」 
    「ご、ごめんね。お兄ちゃん…。先に行かせてくれてありがとう」 
     次女と末弟を一人で見るのは、調子が良い時は大丈夫だけど。悪い時の大変さはよく知っていた。妹が申し訳なさそうに、項垂れると長男はまだ煮え切らない気持ちをぐっと抑えて、その頭を撫でた。 
    「おー、一秒でも早く会いたかったんだもんな」 
    「ありがとう。お疲れ様ね、お兄ちゃん。助かったわ」 
    「あぁ、おかげでセリムとゆっくり話しができた」 
     ウィンリィとエドワードは、労わるように声をかけると、ようやく長男は一呼吸した。 
    「うん。…まぁ」 
    「セリム兄、久しぶり。昨日から会えんの楽しみに待ってたんだ」 
     そしてやっと、客人に挨拶をした。セリムが居ることに驚くこと無く、長男はにいっと笑い、握手を誘う。 
    「また、背伸びたんじゃないの?」 
    「そう! 育ち盛りだからなぁ!」 
     セリムが背に気づくと、自慢するように言った。が、セリムよりまだ背が足りないのは3歳下なので仕方ないかもしれない。 
    「って、お兄ちゃん! セリム君が来るって知ってたの!??」 
    「うん。昨日さ、お父さんとお母さんに、セリム兄と大事な話しがあるから兄弟を全員、面倒みて欲しいって任務を受けたんでね」 
    「…あたしにも、報告なしなの?」 
    「おまえは、セリム兄が来るって聞いたら、言うこと聞かずに家に残るだろ」 
    「ぅ。やだ、そんなことしないもん」 
    「へぇー!駅から一人、真っ先に走ったのは誰だったかなー? ……まぁ許可したのはオレだし、怒ってないけどさ」 
    ** 
     夕飯までにはまだ時間が有るからと、先にセリムの寝床確保のため家族 
    総出で整える。とはいえ、下の子2人は自分のぬいぐるみや本をオモチャ箱に仕舞う仕事だったけど。 
     それからゆっくり食事を済ませ、時刻は20時過ぎ。 
    「うん。そろそろ、良いかも」 
     時計と外を見て、少女は独り言を呟く。 
    「星、見よう! セリム君! あのね、リゼンブールから見る空は何処よりも綺麗なんだから! 冬はどの季節よりも一番なの! 折角だから観なきゃ損だよ!!?」 
     少女は満面の笑みを浮かべ大袈裟に腕を広げて、良さを精一杯アピールする。 
    「きれいなんだよ! ぼくもすき! 見る!! いっしょに見よ!」 
     末の弟が、オウム返しに言いながらセリムの袖を掴む。そうすると今度は、すかさず空いてる方の袖を小さな妹も引っ張って、外のデッキへと誘う。 
          
    「ね、行こうよーお兄ちゃん」 
     ちょっと前まで人見知りで母親の後ろに隠れていたチビ助も、あっという間に懐いちゃうから、子供って可愛いなとふと思った。 
    「うん。観せて」 
     会話を見届けたエドワードは、外は寒いから風邪引くなよー温かい格好で行けよと、注意をし、 
    「セリム、チビたちよろしくなー!」 
     っと背中に託す。 
    「で? こっちのお兄ちゃんは?」 
     わざとらしくウィンリィは部屋に残る長男に訊く。 
    「オレはパぁス! 日中頑張ったから勘弁して。少しは休ませてクダサイ」 
    テーブルに腕を付き頭を乗せて、うだなれながら言った。 
    「それに、……オレよりあっちの方がセリム兄の事、励ますの効果的なんじゃない?」 
     何かを悟るように 少年は不敵に笑う。 
    ** 
        
    「あれがね……、でね…」 
    「…」 
    「セリム君?」 
    「…」 
     声をかけても、遥か遠くの空を見たまま反応無し。どうしたら良いんだろう、少女は困惑した。励ましたい。でも上手い方法がわからない。深い息をを吐くと、白く変わる。 
     セリムから少し視線をずらしちらりと横を見ると、さっきまで隣に居たはずの下の子2人が居ないことに気づく。あの子たちは降りて制限の無い完全な外に、飛び出そうとしていた。 
    「こらー! デッキから出ちゃダメ! 戻ってー!!!」 
     声を上げてびっくりしたのは、横に居たセリムだった。セリムは久しぶりに世界に戻って来てように、現実味がない。そして姉の声にチビ達も素直に戻って来た。 
    「あ」 
    「大丈、夫だった?! ごめん、エドワードさんに任されてたのにさ」 
    「ん、別に気にしないで。それにお父さんもね、そういう意味で言ったわけじゃないと思うの」 
    「え、じゃ、どんな…」 
    「ぅーん、上手く説明できない…かな」 
     少女は上手く言葉に出せなかったので、自分の中で宿題にした。 
    「それより、……私は先からセリム君の事呼んでたのに」 
    「………ごめん」 
     考え過ぎて疲れているような、あんにゅいな表情。それから魂があまり入っていない。どうしても見せたいものがあったけど、夜の闇は逆効果だったのだろうか。 
    (闇にセリム君が、連れて行かれそう…) 
     一緒に心も身体も溶け消えてしまいそうに見え、少女は胸が痛くなって言葉を無くしかけた。 
    でも、そこまで哀しむ理由は、言葉にしなくても少女にもよく分かっている。 
    「……笑って」 
     小さな声で呟いた。けどセリムにはあまり聞こえなかったらしい。 
    「?」 
    「んーー、えっとね。見失ったらまず見つけるのは、北極星」 
     少女はいっぱい笑って空を指し、セリムに見上げるように静かに誘う。 
    「そして三つ斜めに並んでるのが、あれがオリオン座。あそこで一番光ってるのがシリウスで、オオイヌ座の一等星なんだって。その星とベテルギウスとプロキオンを結ぶと、冬の大三角が空に浮かぶの。 …ねぇ? そう見えてきたでしょ」 
     一つ一つ丁寧に伝える姿は、きっと以前両親に教わって、妹弟たちにも優しくそうやってるんだな、とセリムは少女を眺めた。そして言われた通りに、星の輝く点を線で結ぶ。 
    「うゎー …。 でかぃ…」 
     セントラルから少しはずれた郊外の屋敷で見る空よりも、比べることのできない星の瞬きだった。 
    「今日は曇りじゃなくて良かった」 
    「そっか…」 
     見えなくなるんだもんな。 
    「…さっきね、説明できなかったんだけど、分かったかも」 
      
        
    「お父さんがね言いたかったのは多分……」 
     光と光だけだったものを、見えない線で堅く結んだ星座を見ながら、少女は確信を込めて言い放った。 
         
    「“信頼してるよ”」 
    「“セリムはもう、家族の一員だ” って」 
    「家族が躓いたら、必ず抱き起こしてあげるから」 
     少女の声だけで無く、エドワードとウィンリィの声も重なって聞こえた気がした。幾度も、少女自身もまた親からや言われてきた言葉を。 
    「独りじゃないよ」 
     でも。あたしは大切な家族を亡くしたことないから、セリム君の気持ちを全部は分かってあげられないけど。 
    と、申し訳なさそうに少女は目を伏せた。 
    「簡単に言ってごめんね」 
    「……っ」 
     セリムは、そんなことないとただ首を振る。少女が精一杯励まそうとしているのを、セリムにも十分伝わっていた。 
    「あたし達はちっぽけなんだってさ」 
     少女は嘆くわけでもなくむしろ、そうであって良かったと、嬉しそうに笑う。 
    「……無力だとしても?」 
    「だって、お陰で大きな力でたくさん守られてるんだもん」 
     見つめれば、 
     月は地球が空回りしないように忠実に支え、季節を与える。 
     太陽は宇宙を繋ぎとめ、生き物を育て、心も暖める。 
     遠くに位置する木星だって、隕石を地球に近づけさない盾となる。 
    風は、 
    水は、 
    空気は。 
    「この世界なはさ、必要ないものなんて一つもないの。ちゃんと一つ一つ価値がある」 
    「きっと、あたし達は子供も大人も関係なく、大きな存在に、愛されてるんだと思う。セリム君もちゃんと、その中の一人だよ」 
     その横で、妹は少し眠そうに眼を擦り、末の弟は船を漕ぎ始める。日中遊びに出かけてはしゃいだので、今日はいつもよりも幼い子たちは起きてるのが限界のようだ。 
    「部屋に戻ろっか」 
     そして、少女はひらりと立ち上がる。 
    「じゃ最後に、セリム君。あれ、なーんだ!?」 
     神妙になった静かな世界から一変し、大きくて何処か間の抜けた声を出した。少女は指先を夜空に突き出し、星を指す。今日何度、俯くセリムに顔を上げてと誘っただろう。 
    「……なんだっけ」 
     セリムは空を見上げ口を開けたまま、考えたフリをして止まった。冬は一等星が多くて、困る。 
    「もうーっ! さっき言ったのに」 
    「てぃ!! 不正解!」 
     そう言って少女は、満足気にセリムの額にデコピンを喰らわした。 
    「いぃっ!!」 
     言葉にならない声を上げて、セリムは額を抑えるのであった。 
    「ちょっ!! そこは駄目だろぅ……つぅ!!」 
    「あ、つい。セリム君のそこは弱点だったねーーっ!!!ごめんなさいーっ!」 
    「いやいや、絆創膏を貼ってる箇所に攻撃しちゃいけないって分かるよね? この子はっ!」 
    (人間にはあり得ない不気味なこの模様。…普通は、避けるのに……。この家は本当にみんな馬鹿だ) 
     ほんの軽くやり返そうと、指を構えるのを見るや、少女は察知して瞬時に走り出し、室内へと逃げ込んだ。 
    「あははっ! わー! お父さん、お母さん、お兄ちゃん、セリム君が怒ってる!!」 
    「…ぇ !」 
    「あっ!! 待ってよ、おねぇ!!」 
     置いてけぼりのチビ達も慌てて、追いかけて家に帰る。愛犬はまるで羊を狼から守るように、目を開けられなままとぼとぼと歩く末の弟の後ろにつく。 
      
     呼ばれている3人はというと、ソファーに座ってまったりとお茶を啜る。少しだけほっとしたような表情で。 
    「ほら、な」 
     長男は明後日の方向を見ながら、勝手にやってろと笑った。 
     セリムは、楽しそうに逃げる少女に心半分付き合って、後を追いかけながら、 
    (そう言えば、久しぶりに走った…。こんな風に何も考えずにただ走ったのは、あの時以来だ…。……) 
     少しだけ吹っ切れたように、自分の心の奥に向かって呟いた。 
     過去の記憶は無いけど。 
     たくさん貰った無償の愛を無下にした、傲慢で馬鹿な奴。本当は、不器用でもプライドを取り去って心からの言葉を言えば良かったのにな。 
     なんて今の僕が言うけど、15年という時間が流れても、未だに返せていないんだ。 
     この家で僕は生きる。近い未来に必ず、違う誰かに今度こそ感謝を返すから。 
        
    「母さん、今までたくさん愛して、育ててくれてありがとう」 
     この事実が僕の生きる糧だ。 
     そして返しきれないまま与えられる愛は、あの真冬の雪のように絶えずさらさらと降り注ぎ、明日も明後日も消えることなく募っていく……。





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